こんなに簡単!魅力的で説得力のある文章術(7)
こんにちは、アイデアマン養成コーチの寺ちゃんです。
アイデアマン養成所の喫茶室で、ひらめき先輩、
新入社員のアイちゃん、デアくんの三人が雑談をしています。
ひらめき先輩
「きょうは換喩(かんゆ)というレトリックを学ぶ
予定ですが、これもあまり聞きなれない手法ですね」
アイちゃん
「難しい漢字ですね」
デアくん
「いきなり見たら読めないかも」
ひらめき先輩
「でも、いつも言うように、例文を見ればふだん
使っていることがよく分かります」
アイちゃん
「早く例文を見てみたいわ」
デアくん
「どんな表現が換喩なのかな?」
ひらめき先輩
「では、紹介しますね。例えば、
『僕は一晩中、イーグルスを聴いていた』、
こんな感じです」
アイちゃん
「えっ、どこが換喩なんですか?」
デアくん
「ふつうの文ですよね?」
ひらめき先輩
「換喩とは、ある物事をその属性、あるいはそれに
密接な関係のある物事で表現する手法のことです。
物事の隣接性に基づいた比喩のことを言います。
よく用いられる例として、『ある物事が他の物事を
包含する場合』と『道具や器具の名がそれを使用する
職業人を表す場合』があります」
アイちゃん
「そう言われても難しくて分かりませーん!」
デアくん
「僕も分かりませーん!」
ひらめき先輩
「元の表現としては、
『僕は一晩中、イーグルスの曲を聴いていた』です。
換喩を使った表現は、
『僕は一晩中、イーグルスを聴いていた』です。
ちょっと違うでしょ?」
アイちゃん
「換喩だと、わざわざ『イーグルスの曲』と言ってない
ですね」
デアくん
「そうか。そういう省略というか、言葉に含みを持たせている
ということですか?」
ひらめき先輩
「そうです。先ほど言った『ある物事が他の物事を包含
する場合』と『道具や器具の名がそれを使用する職業人を
表す場合』があるというのは、そういう意味です。別の
例文を挙げてみますね。『彼女は羽田から飛び立った』は
どうでしょう」
アイちゃん
「これもそうですか?」
デアくん
「あっ、『羽田』でしょ?」
ひらめき先輩
「そうです」
アイちゃん
「そうか。本来は、『羽田空港』だものね」
デアくん
「『羽田』が空港までの意味を含んでいるということ
ですよね」
ひらめき先輩
「ショーユこと!(醤油を出す真似をする)」
デアくん
「それ聞いたの、久し振り」
アイちゃん
「調子が戻ってきたみたいですね」
ひらめき先輩
「じゃ、例文を考えてみて」
アイちゃん
「そうですね。こういうのはありですか?
『鍋が煮えている』」
ひらめき先輩
「ありですね。本来は、鍋の中身のことですよね」
デアくん
「犯人をつかまえに白バイが駆けつけた」
ひらめき先輩
「いいですね。本来の意味は、白バイに乗った警官の
ことですよね」
アイちゃん
「換喩って、気づいていないだけで、ふだん、ほんとに
よく使ってるんですね」
ひらめき先輩
「こういうのもあるんです。
『考えを消化する』
『馬鹿げた話を鵜呑みにする』
『歴史小説をむさぼり読む』
これは、隣接関係に基づく換喩例です」
アイちゃん
「『考え』『話』『小説』は食べ物じゃないけど、
伝えたい意味の言葉を食べ物の世界から引用してますね」
デアくん
「こういうのも換喩なのか」
ひらめき先輩
「はい、きょうはここまで。次回は提喩(ていゆ)です。
お楽しみに」
参考文献:日本語のレトリック―文章表現の技法 (岩波ジュニア新書)